Screw Factory

「よーし、いくぞ!!気をつけろよ!!」

何人もの男たちが「うおおおお!!」という唸り声を上げながら、ドロドロに溶けて真っ赤な鉄の入った容器をひっくり返して「スクリュー」の「型」に流し込んでいる。

「ゆっくりだ!!急ぐな!!気をつけろよ!!」

凄まじい緊張感と灼熱の熱風とに包まれた工房内に男たちの怒号が飛び交いながら、マグマの様な液体がゆっくりと注がれていく。肌が灼ける様に熱い。止めどなく汗が噴き出す。その汗がファインダーを覗く目に染み込んでいく。それでも男たちのむき出しの「生」を記録するべく、僕は何度もシャッターを切った。切りながら、ここは地獄のようなところだと思った。

バングラデシュの首都ダッカは人口約1400万人を抱えるメガシティだ。人口密度は極めて高い。主要幹線道路は乗用車とバスとバイク、そしてリキシャ(三輪自転車タクシー)で溢れかえり、常に大渋滞を引き起こしている。船だって例外ではない。大小何本もの川が流れるバングラデシュでは日常的な交通手段として船も活発に利用され、庶民の足となっている。そのため造船や解体など船に関わるビジネスも活発だ。

僕はダッカ中心部を流れるブリガンガ川沿いにある大型客船の造船や修理を行うドック「カラニゴンジ」を訪れていた。この産業に関わって働く人々を撮るためだ。

実際にドックに入ってみると高さおよそ10~15メートルはあろうかという巨大な船体が何十隻とひしめき合うように並べられていた。どれも古びた客船ばかりで、油と埃にまみれて真っ黒な男達がバーナーで火花を散らしたり、ハンマーを振るったり、巨大な鉄塊を頭に乗せて運んだりしている。

圧倒的なその光景に見とれながら僕はドック内を歩き回った。

そこには船舶用エンジンを修理する店や、オイルを売る店、碇や鎖を売る店など、この産業に関わるあらゆる店がひしめき合うように並んでいて一つの街を形成していた。

僕はその中の一つに「スクリュー」を制作する工房を見つけた。

小さな工房内では15~50歳までの男たち8人が働いていた。工房内の地面は一面砂鉄で、そこに大小いくつものスクリューの型がかたどられている。

素手素足の男たちは地面にしゃがみこんでまるで砂遊びをするかのように何度も砂鉄を均しながら、スクリューの「型」を驚くほど精巧に作っていく。工房のすぐ外ではもくもくと煙を上げる「炉」があり、容器に入った金属が溶かされている。その熱風と外温とが相まって工房内はさながら蒸し風呂のようだ。その中で黙々と型作りをしている男たちは額に汗を浮かべ真剣そのものだ。

「ここで作られたスクリューはこの後研磨して、売りに出されるんだ。値段は大きさによって変わるが大体8千~15万タカだ(約8万~15万円)」

この工房のボスであるハッサンはそう言いながら続けた。

「今はこうやって手作業で作ってるだろ。だから1週間で作れる数は小さいもので15個ほど。大きいもので5つが限界だ。」

彼がそう言っているすぐ側で、つい今しがた出来たばかりのスクリューを担いで研磨工房へと運んでいく労働者たち。顔は疲れ果て、どことなく物悲しく、苦しみに満ちているように見えた。しかし目だけは死んでおらず、強い光を宿しているように見える。その「光」の正体は何なのか・・・。ファインダー越しにその姿を見ながら考えたが答えは出なかった。

帰国してから彼らを写した写真を改めて見た。そこには来る日も来る日もあの灼熱の地獄のような場所でスクリューを作り続ける労働者の姿があった。それを見つめ続けながらふと思った。

彼らにとって「労働」の意味が「生きること」とが混じり気なく直結しているからこそあの強い「光」を宿すことができるのではないだろうか。更に言えば全てを引き受ける「覚悟」と「潔さ」を持って働き、生きているのではないだろうか。

そんなことを考えながら、僕は何度も何度も写真を眺めた。